神戸地方裁判所 昭和25年(ヨ)26号・昭25年(ヨ)33号・昭25年(ヨ)34号 判決
申請人 住井静雄 外十九名
被申請人 三菱電機株式会社
一、保証 無保証
二、主 文
被申請人が申請人阪口昌二、山崎暁美、吉岡久太郎、森口捨市、東道夫、河関幸雄に対して昭和二十五年一月二十七日附で、その他の申請人等に対して同月二十一日附でした解雇処分の効力を停止する。
訴訟費用は被申請人の負担とする。
三、申請の趣旨
申請人等代理人は、「被申請人が申請人阪口、吉岡、森口、山崎、東、河関に対して昭和二十五年一月二十七日附で他の申請人等に対して同月二十一日附でした懲戒解雇の効力は本案判決確定に至るまでこれを停止する。被申請人は申請人等が被申請人工場神戸製作所に出勤することを妨げてはならない」との仮処分命令を求める。
四、事 実
その理由として、申請人等は被申請会社(以下単に会社という)神戸製作所に勤務する労働者であるが、会社は申請人等従業員の賃金について職階制という給与制度を取入れ、これを昭和二十五年一月から実施する旨昭和二十四年十一月一日発表したので、申請人等従業員が組織する労働組合は同月二十一日から職階制実施につき会社と協議会を開いて協議を重ねたが、双方の意見合致せず、同年十二月二十日協議決裂し、引続き団体交渉に移つて交渉を続けた。
その前すなわち協議会のまだ行われていた昭和二十四年十二月一日会社神戸製作所第三機械工場ミーリング班十六名はたまたまその頃支給された十一月分給料が予想より少なかつたため、職階制が実施されればさらに給料は少くなるのでないか等と不安不満を感じ、全員欠勤したのに対し、会社は同年十二月三十日その五名を出勤停止、二名を譴責の懲戒処分に附した。
そこで、当時団体交渉中の組合は、これまた職階制に関連しての問題なので、その懲戒処分取消方を会社に申入れ交渉していたが、昭和二十五年一月十一日正午からの休み時間中会社神戸製作所第一機械工場、第三機械工場の従業員はこれにつき陳情文を神戸製作所長に提出するため所長室前に出かけて行つた。すると、会社側はこれに対して面会をさえ拒み続け、そのうち休み時間が終ると見るや、職場に復帰せよと陳情者に言渡したので、陳情者やその様子を見に来ていた従業員等は、会社のこの不誠意な態度に憤慨し、その場に座りこんだ。これを伝え聞いた他の従業員達も相次いでその場にかけつけ、やがて総勢千名を越える者がその附近に集合した。陳情団はそのまゝ所長室前で待つていたのであるが、その前方にいた者は背後から押して来る力を支えようとして支え切れず、前後三回ほど所長室内に押込まれてしまうということなり、その際その附近の器物、扉等につき当り、或は転倒して所長室扉のガラス、つい立その他を破損する結果を生じさせてしまつた。
以上の経過から見てわかるように、右の事件は会社側の強圧的な行動に誘発されて従業員大衆の間から自然発生的に湧き上つた団体行動の結果である、千人を越える多数の集合した所一部器物の破損も遺憾ではあるがやむを得ない結果というべく、結局前記行動は全体から見て正当な争議行為といわれて然るべきものである。
元来、会社は昭和二十四年十二月二十日協議決裂後、会社独自の立場で職階制を実施する権利を有するに至つたと称して、昭和二十五年一月支払給料(それは協議決裂前の昭和二十四年十一月二十一日から翌月二十日までの間の労働に対する給料なのである)から、職階制を強行すると、宣言し、自ら争議状態を作り出し、組合を争議に引入れたのであつて、申請人等組合員の前記行動はこれに対応してのものなのであるから、(それ故にこの行動については組合会社間の協約第八十九条の定める争議行為通告を経ていないけれどもその必要のない場合なのである。)正当ならざる争議ではないのである。
然るに、会社は前記の事件を取上げ、参加者の行動を就業規則違反であるとして申請人等に対し(しかも申請人等のうち、阪口、吉岡、森口、東、河関に対しては同人等が直接右行動に参加していないのにかゝわらず、組合幹部として連帯責任があるとして)それぞれ後記の懲戒規定を適用し申請の趣旨記載の日附で解雇通知を発して懲戒解雇処分をとつたのである。
右各人に対し会社の適用した懲戒条項とは次の通りである。
住井静雄 就業規則第百十五条第八、九、十五号
就業規則第百十六条第三、八、十一、十八号
浅井通夫 同右
小山健二 同右
田処仁司 同右
三木満武 同右
松本芳幸 同右
大学肇 同右
三浦正雄 同右
柴田健一郎 同右
田中蔵信 就業規則第百十五条第八、九、十五号
就業規則第百十六条第八、九、十一、十八号
鳥飼敏幸 就業規則第百十五条第十五号
就業規則第百十六条第八、十一、十八号
薬師寺許一 就業規則第百十五条第八、九、十五号
就業規則第百十六条第三、八、十一、十八号
油谷幸男 同右
稻田義美 同右
山崎暁美 同右(但第百十五条第九号を除く)
阪口昌二 就業規則第百十五条第八号
就業規則第百十六条第三、十一、十八号
吉岡久太郎 同右
森口捨市 同右
東道夫 同右
河関幸雄 同右
右就業規則各条項の内容は
第百十五条 従業員が左の各号の一に該当するときは出勤停止に処する。但しその程度が軽微であるか又は改悟の情が著しいときは譴責にとどめる。
八、出入を禁止されている場所に立入つたとき
九、勝手に自分の職場を離れ他の職場に立入つたとき
十五、本規則によつて守らなければならない事項を犯し又は労働協約第二十八条第十五号に該当したとき
第百十六条 従業員が左の各号の一に該当するときは懲戒解雇に処する。但し情状を酌量し、出勤停止にとどめることがある。
三、機械、器具、設備、材料等を故意に破損又は滅失したとき
八、風紀を紊し又は秩序を破つたとき
九、正当の理由なしに上長の命に服しないとき
十一、他人に暴行或は脅迫を加えたとき
十八、その他前各号に準ずる程度の特に不都合な行為があつたとき
然しながら、前記の如き正当な争議である行為をしたことを理由に申請人等を解雇するのは法に禁ずる不当労働行為で無効であるのみならず、争議とはその本質上使用者の指揮命令を排除するものであるのに、正に争議行為に外ならぬ申請人等の本件行動に対し前記の如く指揮命令権に基く就業規則を適用して申請人等を懲戒解雇することは許されない。
また仮に前記争議行為に際して一部の者の行為により器物破壊の行為がなされたとしても、その故に右争議全体が不正な争議となるわけはなく、その不正をなしたもの及びその共同行為者に責任があるだけである。然るに申請人等はそのいずれでもない。
さらに右争議行為が不正なものである限りにおいて就業規則の適用があるとしても、就業規則中にたとえば騷擾行為を解雇原因として明記していない限り、単に不正な争議行為をしたというだけで解雇することはできないのであつて、ただ之に基き民法上損害賠償の責任を生じることがあり得るのみである。さらにまた申請人阪口、吉岡、森口、東、河関に至つては前記争議に参加してもいなければ、これを指令してもいないのに、組合幹部の故を以て連帯責任ありとして、これを懲戒解雇した会社の処分は違法である。
殊に申請人大学は、昭和二十五年一月二十一日午前十一時作業中業務上負傷し同月二十八日まで療養の為休業していたのに、同月二十一日午後これに対し解雇処分をしたのは、労働基準法第十九条に違反した無効な処分であると述べた。(疏明省略)
被申請代理人は、申請人等の申請を却下するとの判決を求め、
答弁として、申請人等が被申請人会社神戸製作所勤務の労働者であつたこと、被申請人が申請人等に対し、昭和二十五年一月十一日神戸製作所々長室で行つた侵入、暴行脅迫、不法監禁、器物損壊等の行為につき申請人等主張の通り就業規則を適用し、その主張日附の書面でこれを懲戒解雇したことは認めるが、この解雇は次に述べる如く正当なものである。
すなわち、被申請人会社は、予てから、同一労働同一賃金の原則に基く合理的な賃金体系である職階制の樹立を計り、研究を進めて来たが、昭和二十四年九月その確定案を得たので、これが実施につき申請人等会社従業員で組織する三菱電機株式会社労働組合連合会と数囘にわたり協議会をひらいて協議を重ねたが、その実施時期についてのみ双方の意見合致せず、終に昭和二十四年十二月二十日協議不成立を双方において確認するのやむなきに至つた。会社組合間に締結されている労働協約第七十七条第三項によれば、協議会開始後三十日を過ぎたとき、又は三十日以内でも双方協議不成立を確認したときは、そのときからその事項に関して双方協議すべき義務を免れる」とあるので、会社はこれにより、一方的に職階制を実施する権利を有することとなつたので、昭和二十五年一月支払給与からこれを実施することとした。
これに対して、組合連合会ならびにその組織組合である神戸製作所労働組合以外の十二単一労働組合は協議不成立確認後も争議手段に訴えることなく、団体交渉による平和的解決を望む態度を持していたが、神戸製作所労働組合のみは会社神戸製作所に対し昭和二十四年十二月二十三日争議協定を申込み、同月二十六日争議通告を発し、翌二十七日第一囘部分ストを開始する等抗争的態度に出たのであつた。
さらにこれよりさき昭和二十四年十一月三十日神戸製作所工作部機械課第三機械工場ミーリング班の日給者数名は、同月二十八日受取つた賃金が予想より少かつたのを不満とし、それは実はその賃金に対する労働期間中に休日が多かつたことによるものなのであるのに、ことさらにこれを職階制に結びつけ、職階制が実施されれば、賃金はなお低下すると周囲の者を煽動したため、同年十二月一日同班全員は無届欠勤した。これはさきに述べた協議会続行中の出来事で、未だ争議状態に入つていない時の無届欠勤なのであるから、会社はこれを就業規則違反とみて、出勤停止または譴責の懲戒処分に附した。これを三機事件という。
然るに、その後神戸製作所労働組合は、単組の交渉事項外である越年のための前借や、前記三機事件をも、職階制問題と共に取上げ、神戸製作所に要求を提出して交渉を求める一方、従業員等は再三無許可集会、デモ面会強要等無秩序、不穏な行動をくりかえし敢行しついに以下に述べる如く一月十一日の騷擾行為にまで及んだのである。
すなわち、昭和二十五年一月十一日午後〇時五分頃、組合員約百六十名はスクラムを組み、守警の制止をしりぞけて本館事務所階上に乱入し、所長室前廊下に密集したが、次々とその他の従業員も押よせてこれに加りほどなく約七百名に達し喚声を挙げて騷ぎ立て、その後も申請人田中、三木、浅井、鳥飼等は各職場に残留していた者を呼集し、終に総勢千名に及ぶ者が所長室附近に集合し気勢をあげるのであつた。
当時所長室内には、急をきいてかけつけた者をも含めて所長以下十名ほどの会社側幹部と数名の守警等があつたが、会社側としては大衆の威力によつて事を解決しようとする組合員の態度を是正し、合法的交渉によつて事の解決を計るべく、集合した組合員等に対し速かな解散を望む旨述べ、或は入室禁止の掲示をなす等組合員を平穏に解散せしむべく努力したが、集合した大衆はこれに応ぜず、ますます喧騷をきわめ、その間一部の者は交換台を占拠し、官設電話を切断して所長室と外部との連絡を絶ち、会社側の者が用便に行こうとしても通路をふさぎ出入を許さず、所長室内の者を監禁状態に陥れてしまつた。
この状態が続くこと二時間余り午後二時三十分頃になるとついに一部の者は喚声をあげて所長室内になだれこみ、入口扉のガラスを破壞し、机、いす、つい立等を押たおし、さらに午後三時四十分頃には約二十五名の者が所長室内に侵入してすわりこみ、ついで同五十分頃には所長室表裏の入口から約二百五十名の者が室内へなだれこみ、扉ガラスを破壞し、つい立、机等を押たおし、つい立をけやぶり、机上の書類等を散乱破損せしめた外、その前後に所長室前廊下の電話を破壞落下させ、特別応接室内のかさ立、机、灰皿等、湯沸場内の窓ガラス二枚、廊下の消火器具箱ガラス等を破壞したほか、各室内に侵入して乱暴を働き、第七応接室から出ようとした松田寮舍係長の通路をふさぎ罵言し、後から殴打して元の室内にとじこめる等の行動に出た。さらに、所長室内に監禁された者が危険の迫るのを感じて守警詰所に連絡し非常はしごを南窓下に準備させたところ、申請人鳥飼は組合員約五十名を集めてその周囲にスクラムを組み、はしごを下りて来るものがあればこれを妨害しようと物すごい気勢を示して、脅迫するのであつた。他方午後〇時二十五分頃申請人吉岡副組合長は所長に対し「組合員に会つてもらいたい、これは組合運動である」というので、会社側から協約違反の交渉には応じられないから、集つた組合員を解散させるようにと要求したのに対し、同人は之に応ぜず、その後も組合役員である申請人等に対して監禁をといて便所へ会社側の者が行けるよう処置することを求めたのに対して、同人等は会社の囘答を得た後に処置するというのみで、何等適当な処置をとらずして、前記の状態、組合員の行動を放任すること数時間、午後四時頃になつて始めて、申請人吉岡は大衆に対し執行部において会社と交渉し囘答を得るから解散されたいと告げたところ、大衆はにわかに、その指示に応じて解散し、あたかも組合執行部との間に予め計画され打合されたところに従つて行動し解散するものの如くであつた。
以上の行動は正式な団体交渉でもなければ、適法な争議行為でもない。すなわち会社と組合との間に締結されている労働協約によれば、団体交渉は予め交渉事項、人員、日時、場所について双方連絡取りきめた上でなければできない定めであるし(協約第八十二条第二項)また、その交渉の場所やその周辺で喧噪な行為をしてはならないのであるし(協約第八十四条)争議行為は予め双方争議協定を行つた上、その都度二十四時間前に通告しなければ行えないのである(協約第八十九条)のに、前記行動についてはこれ等の要件が全く欠けているからである。そればかりでなく労働組合についても暴力の行使は法の厳に禁止するところである以上、前記の如く多数の従業員が集合して所長室に押入り、暴行脅迫、監禁、器物損壞の暴挙を敢てしたのは、正当な争議でも団体交渉でもなく、唯一箇の騷擾行為であるに外ならない。しかも、それが多衆集合してなされた騷擾行為である以上、その一部をなす個々の暴行が具体的に個人の手によつて実行されたものであつても、その騷擾行為に加つたもの各人がその責任を負うべきなのであり、かかる労働争議でも団体交渉でもない行為について会社の従業員規則の適則を受くべきものであることもまた当然である。
しかも、この騷擾行為は一見参加者の自然発生的な行動の如く見えながら、実は組合執行委員会、最高闘争委員会の指令に基く組合としての組織的、計画的な行動なのであるから、これを指令した執行委員、最高闘争委員は自ら直接前記行為に参加しておらないでも、右行為について責任を負わなければならい。
然るに、申請人阪口、吉岡、森口、東、河関の五名はすべて組合執行委員であり、最高闘争委員でありながら、労働法及び労働協約上の義務に違反し、すすんで組合員を煽動して前記の如き不法な行動を実行させたものであり、その他の申請人等はいずれも前記騷擾行為に直接参加したものであるほか、申請人田中は昭和二十五年一月五日にも十二名の者をひきい、プラカードを押たて、会社構内をデモ行進し、昭和二十四年十一月二十一日から十二月二十日の間二十九時間余にわたつて職場を放棄し、能率著しく劣悪であり、上長の命に反して作業伝票を提出しない等の就業規則違反行為があつたのである。
従つて、被申請人がこれ等申請人に就業規則を適用し、申請人主張通りの各条項該当者としてこれを懲戒解雇したのは何等違法な処置でなく、全く正当なものである。
また、申請人大学に対し、同人がその主張の日時に職務上負傷した後本件解雇処分をしたことは認めるが、これは労働基準法所定の期間経過後に解雇の効力を発生すべき予告的効果を持つた処分であり、しかも現在としては右期間を経過しているのであるから、完全に解雇処分としての効力を発生しており、有効なものであると述べた。(疏明省略)
五、理 由
申請人等被申請会社の従業員を以て組織する労働組合は昭和二十四年十一月二十一日以来、被申請会社と労働協議会を開いて職階制の実施について協議を重ねたが、双方の意見一致せず、ついに同年十二月二十日協議不成立を双方確認するに至り、会社側は爾後組合側との協議を経ず、昭和二十五年一月支払の給与から職階制による給与制度を実施すると宣し、他方同会社神戸製作所労働組合はこれに反対し、労働協約の定めるところにより昭和二十四年十二月二十三日同所との間に争議協定を結び争議状態に入つたこと、さらに昭和二十五年一月十一日午後〇時すぎ、同所従業員の一部は同所長室前に陳情のためと称して集合したが、その後次第にその数を増し、結局約千名に達する従業員がその附近に座り込み、午後四時すぎになつて始めて解散するに至つたこと、被申請会社が右事件に関連し申請人等に対し申請人主張の如く就業規則を適用しその主張日附でこれを懲戒解雇したことは当事者間に争がない。
申請人は、この一月十一日における会社従業員等の行動は就業規則の適用を排除すべき争議行為その他労働者が正当な行為であると主張するのでこの点について判断する。
申請人吉岡久太郎(第一、二囘)薬師寺許一、三木満武各本人尋問の結果と真正に成立したものと認められる甲第三号証、第四号証の二、三、成立に争のない乙第十二号証、第十六号証の一とによつて疏明されたところによれば、右職階制実施に関する協議の決裂した後、被申請会社労働組合連合会は各単位組合に対し昭和二十四年十二月二十日附で各単組の事情に応じた闘争をせよとの指令を発し、申請人等の属する単組においてもその指令に従い、組合員に対し各々の職場において自主的に闘争を展開するよう指示し、翌年一月初頃から一部職場での部分ストや、デモが行われていたが、さきに起つたいわゆる三機事件について会社から懲戒処分を受けた者の取扱および年末資金の前借等についての団体交渉が同月十日ついに不調に終つたので、これについて一部従業員がその職場代表者等に動かされて所長等会社側幹部に面会し陳情書を提出すると称し集団をなして所長室前に赴いたのに端を発し、これを聞き伝えたその他の従業員がその附近に集合し座り込んだのであるが、その参加者はいずれも労働組合法第六条で交渉権限ある者とされている正規の組合代表でもなければ、組合ないし組合員から会社との交渉を委任されていた者でもなく、右のような共同の集団でありながら、自らの代表者を立ててその目的を会社側に提示することもせず、さらに組合代表者として正当な交渉権限ある申請人吉岡以下組合執行委員がその後間もなくこの状況を知つてその場に来合せ、所長と面接しながら、ただ集合した陳情者に会つてやつてくれとの言をくりかえすのみで、それ等陳情団外の者としてそれと会社との間を仲介する如き立場をとるに止まり、それ等陳情の内容を組合自体のものとして取上げ、自らその具体的内容について交渉する態度に出ておらなかつた等の事実から推すと、これ等従業員大衆の行動は会社組合間の紛議につき組合として交渉することを目的としたわけでなく、その自称する如く単に従業員として会社に陳情することを目的としたものと見られるが、そのような陳情行為ないしそのため集合することはそれ等の者が、その交渉相手たる会社から正当な交渉権者と認められた組合を組織している場合には、労働者の正当な行為として特に法の認め保護している団体交渉に属する労働行為とはいい難いのであり、また右の行為に参加した者がその結果正規の就業時間に就業しないことがあつたとしてもそれは単にかかる陳情のため面会を続けたことから反射的に生じた結果であるに過ぎず、これを以て使用者が交渉の相手とすることができる代表者を備え、共通の目的のために団結した労働者がその具体的主張を貫徹することを目的としこれを使用者に提示し、その目的達成の手段として行う就業拒否であるべき争議行為と見ることはできない。
そうすれば、前記従業員大衆の行動は、特に法律が労働者の正当な権利として保護している行為に属さず、法律上単に放任されているにすぎない事実行為に属するものというべく、従つて、その行為自体当然違法なものとして処罰の対象となるわけではないが、それがたまたま就業規則の定める懲戒事由に該当すれば、その適用を受けて懲戒解雇されてもまたやむを得ないのであつて、この点正当な争議行為としてなされた場合免責されるのとは異るのであるから、右行為について就業規則の適用があるべきでないという申請人の主張は採用できない。
そこで、以下申請人等の行為が被申請人の主張する解雇事由に当るか否かについて判断する。
前段認定のように、前記一月十一日当日における従業員大衆の行為が単なる陳情行為である以上、会社代表者としては自ら進んでこれと応接することはもとより差支ないことではあるが、団体交渉の場合とは違つてこれに応ずる法律上の義務があるわけではなく、従業員としても単なる陳情のため使用者に面会を強要することはできないのであるのに、前述のように各々その職場を放棄し約千名の大衆を以て所長室前附近一帯に押よせ座り込み、前後四時間にわたつて面会を求め続け、しかも証人関屋与の証言によつて疏明されるようにその間会社幹部の解散要求に対してもこれに応じないで、喚声を挙げ、労働歌を合唱する等して騷ぎたて押し合い等し、大衆を以て所長室への通路をふさいだことは、会社内の秩序を乱した行為であり、正当な理由なく上長の命に服さなかつたものといわざるを得ない。けだし、労働者としてその利益を守るため組合に団結した以上、その組織と代表者とを通じて使用者と秩序ある交渉をすべきであり、労働者大衆の威力も組合を通じ、或はその代表者を鼓舞し支持することによつて発揮するのが団結した労働者の労使対等という衡平な立場に基く健全な行動であるというべきなのであるから。
従つて、右の陳情に参加し、会社の命令にかかわらず解散することなく面会を求めて座り込んだ者はすべて就業規則第百十六条第八、九号の定める懲戒事由に該当する行為があつたものというべく、証人河崎範雄、関屋与の証言ならびに申請人薬師寺許一の本人尋問での供述によれば、阪口、吉岡、森口、東、河関を除く他の申請人等が直接前記陳情団に終始参加していたことが疏明されるから、同人等は前記懲戒規定に定められた所為があつたものといえる。
次に、被申請人主張の写真である事に争のない乙第六号証の一ないし二十二(但しその三、八を除く)と証人河崎範雄、関屋与、坂本数治の証言とによると、所長室前にいた従業員の一部は前後二囘にわたり所長室内になだれこんで、被申請人主張の如くその内部器物を損壞したこと、またその間その一部の者の手により特別応接室その他にあつた器物が被申請人主張の如く損壞汚損されたことはうかがわれ、また所長室内になだれこんだのは、集合した群集の後方にあるものが押した力に、所長室直前に位置していた者が抗しかねて室内に押し込まれ、そこにあつた器物につきあたり等して前記認定のような器物損壞の結果を生じたものであることは前記証言及び申請人薬師寺許一本人尋問の結果によつて疏明されるところであり、それは押合という故意の暴行の結果というべである。
また以上の如く、従業員約千名の多数が所長室前やその附近廊下一帯に座り込み、約四時間にわたつて会社側の者の同所への出入を極めて困難にし同室内にあつた会社側一部の者に相当不安危惧の念をいだかせたことは、証人梶谷万龜次の証言からしてもうかがえるところではあるが、その間同室内では申請人吉岡以下組合幹部が会社側幹部と比較的平静に折衝していたのであつて、次に述べる事例を除いては、特に多衆の威力を示して会社側の者を脅かす行動を直接とつた者がなかつたことは申請人吉岡久太郎本人尋問(第一囘)の結果によりうかがわれるので、この程度ではまだその参加者全員の行動が脅迫の程度に達したものとは見られないが、証人正木茂雄の証言によれば、当時附近応接室に居あわせた会社松岡係長がその室から出ようとした際、その附近にいた従業員に進路を阻まれ、罵言、欧打されてふたたび室内へとじこめられた事実が、また証人坂本数次、正木茂雄の各証言によると、申請人鳥飼は会社側の者が所長室窓へ外部からはし子をかけた際三、四十名の者をひきいてその下を取囲み、そのはし子を使用して会社側の者が下りることを妨げる行為を取つた事実がそれぞれ疏明される。これ等は多衆の威力を示して他の自由行動を阻み他人に暴行脅迫を加えた事になるのは勿論である。
そして、以上の器物損壞、暴行脅迫などは、前記のように千人にも達する多数の労働者が使用者に対し不満をもつて比較的狭い(このことは現場の図面であることに争のない乙第十九号証の二により疏明される)場所に長時間無秩序に集合していれば、勢の赴くところ発生しがちであることは容易に予想できるところであるから、右のように故意の暴行の結果器物が損壞され、他人に暴行脅迫が加えられた以上、陳情という共同の目的につながれた前記集団中の誰かがしたことが明かな右行為については、その全員が責任を負わねばならないことは、民法第七百十九条の解釈上明かなところであつて、これを懲罰的な解雇原因として見る場合にも結論を異にしない。そうだとすれば、鳥飼を除く前示申請人等が直接前記損壊、暴行、脅迫を行つたことを疏明すべき資料はないが、右集団に参加した同人等は就業規則第百十六条第三号の機械器具設備材料等を故意に破損し滅失した者、同第十一号の他人に暴行脅迫を加えた者として懲戒規定に基きその責を問われなければならない。
なお、被申請人は申請人田中蔵信についてその他特別の反則行為を主張しているが、これを疏明するに足る資料はない。
次に、申請人阪口、吉岡、森口、東、河関の責任について考えて見る。
先に述べたように、申請人等の属する神戸製作所労働組合は各組合員に対し各その職場において自主的に闘争を展開するよう指示しているのであり、しかも申請人吉岡久太郎本人尋問(第二囘)の結果によれば、同人は前記大衆行動のなされた一月十一日午前中一部職場の者が陳情行為を計画していることを聞き知りながら、これを阻止していないことが疏明され、これ等の事実から見れば同日一部従業員によつて行われた前記陳情、デモ行為は、前記組合の一般的に指示したいわゆる自主的職場闘争の一として行われたものと一応認むべきであるから、もとより右の一般的指示が前記のような違法で無秩序、暴力的な大衆行動を指示したものとは解されないし又解すべき資料もないが、少くとも右組合の幹部である前記五名の申請人等としては(同人等が組合の執行委員であり、争議中その最高闘争委員であることは争がない)その直接指導統制下に行われる罷業、団体交渉等の一般争議手段の外、自主的職場闘争という屡々組合の統制を逸脱して無秩序に陥るおそれがあることの当然予想される方法を指示した以上、それが本件において実際そうなつたように無秩序に陥り暴力的にならないよう十分の指導をつくしてなおそれが防止できなかつたことが明かでない限り、右指令から一般に予想され得べき逸脱についてその責を免れないものと解すべきであるが、右申請人等が事前にそのような事故発生防止に努めたことの疏明はないのであるし、右一月十一日の事件当時所長室において所長以下と折衝した申請人吉岡、東、河関等にしても、申請人薬師寺許一本人尋問の結果によつて疏明されるように両三度室外の群集に解散を要請したことはあつたが、その他の前後四時間の間は前述のように専ら陳情団に会社側が面会するようにと応酬していたのみなのであるから、同申請人等が一般陳情者の前記行動に直接参加していたのではなく、また当日の大衆行動が同申請人等の特に具体的に指令したものであることを疏明するに足りる資料はないとはいえやはり、その一般的に指令した自主的闘争の一として行われた本件大衆行動から生じた前記諸結果についてその責を免れないものといえよう。その結果の中、秩序を乱し、上長の命に従わなかつたという行動はもとより、その他の器物損壊、暴行、脅迫等の結果にしても、その指令した自主的闘争としての大衆行動に附随して起る事実であることは一般に予測され得るところなのであるから、そうすれば、申請人等はいずれも一応は就業規則第百十六条第三、八、十一号所定の懲戒事由につき責任があるものといわなければならない。
然しながら、他方被申請会社が組合との協議不成立を理由に一方的に昭和二十五年一月支払分の賃金から職階制による給与を実施すると宣し、また実行したことは当事者間に争のないところなのであるが、成立に争のない乙第一、三号証によれば、昭和二十四年十月十九日被申請会社とその労働組合連合会ならびに所属単位組合との間には同年十月分から翌年三月分までの基準賃金に関し労働協約と同一の効力を有する協定が成立していることが疏明されるので、前記の場合、右協約で定められた基準賃金の一部分に対し会社が一方的に職階制による給与を導入することとなるのであり、その結果総組合員に対する平均基準賃金には差異は来さないとしてもそれは平均されたものについて見る限りにおいてのみそうなのであり、個々の組合員に対し具体的に定められた賃金についてはその現在従事している職務の格付とこれに対し定められる基本賃金額如何によりその基本賃金の減額を来すもののできることは証人日比野三郎、稻垣健三の各証言からもうかがえるところであり、かかる結果を来す制度を一方的に実施することは、雇傭契約の内容を一方的に変更することとなるので、本来使用者の権利に属しないのみならず、前記の如く労働協約と同一の効力を有する協定によつて昭和二十四年十月から同二十五年三月分迄の基準賃金の内容が定められており、職階制は実質上右協定賃金内容を変更することとなるのであるから、右協約の存続期間中である同年一月支払賃金から会社が組合の同意なく一方的に職階制を実施することは労働協約の規範条項に違反するわけである。右協定書(乙第三号証)中には、職階制導入後とか、職階制導入の場合等は職階制の採用を予測するような文言が記されているが、これを以て被申請人のいうように職階制実施について組合の同意があつたものと解すべきでないことは、証人稻垣健三の証言、申請人吉岡久太郎本人尋問(第一囘)の結果から疏明されるように、基本的理念として会社が職階制をいずれ実施すべきことについては組合としても一応諒解していたが、その実施されるべき職階制の具体的内容や実施方法については双方の意見が一致しないでいたので前述の如く再三協議会を開いたが、決裂するに至つたとの事情からうかがわれるのであり、結局前記文言は組合の同意を得て職階制を導入することとなつたならば、その導入は算式中第二手当の部分においてすることを約したにすぎないものと思われる。また成立に争のない乙第一号証によつて疏明される会社組合間に成立した労働協約第七十七条第三項の協議不成立を確定したときはそのときからその事項に関して双方協議すべき義務を免れるとの定めも、このような会社本来の業務指揮権に属しない、労働契約内容の一方的変更についてまで、会社の自由行動を許したものとは解されないのであつて、結局前記の如く会社が一方的に職階制を実施することは、協約違反であり、少くとも基本賃金が減額となる者に対しては効力を生じ得ないことを敢てしたことになるものと思われる。もとよりそれあるからといつて、申請人等の前記大衆無秩序の行為が正当なものとされるわけではないが、その陳情行為は結局職階制に関連して発生したものであり、その原因となつた職階制の実施につき懲戒者たる会社側においてすでに前示の如く組合との間に成立した給与協定満期を僅か三ケ月の後に見ながらその満了後の協定に俟つことなく弁明し難い一方的強行実施に出ている事実があり、しかも前述の如く器物破壊、暴行脅迫の行為については本件申請人等が直接これを行つた疏明はなく、ただその結果を生ぜしめた大衆の一員としての連帯責任が認められるだけなのであり、又申請人等がその首謀者であり、或は率先活躍した者であるとも認められず、他に千人に達する責任者の中から選んで申請人等のみを解雇処分に附すべき特別の事情の疏明されぬ本件においては右就業規則但書のいう出勤停止にとどめるべき情状が存在するものと一応認められる。ただ申請人鳥飼のみは前示のように部分的に主導的行動をとつたと認められるが、これとても右の事件の原因等を全体的に見てその地位を考えれば、それを捕えて解雇処分にまでするに及ばない情状であると判断される。しかして叙上の情状がある場合、懲戒解雇処分をせず、出勤停止にとどめることは懲戒権者である会社の恩惠的裁量であるに過ぎないといえないことは、右就業規則の上位規定である労働協約第二十九条但書にこれにつき「情状によつては出勤停止にとどめる」と合意明定されていることから推認される。そうすれば、正にかかる情状の存在すると考えられる本件において、被申請人がこの点を反省酌量せず千名に上る前記大衆のうちから本件申請人のみを特段の事情もないのに勤労者にとつて極刑ともいうべき懲戒解雇処分に附したことは不当であり、その解雇処分は右協約第二十九条但書に違反し一応無効であると認められるにもかかわらず、申請人等が被申請会社から被解雇者として取扱われることは、就職困難な今日、一介の勤労者であるにすぎない同人等の生活を脅す死活問題であると見られるので(一介の勤労者である以上反証なき限りそう見るべきである)その受けることあるべき著しい損害を防止するために、同人等に対する解雇処分の効力をその雇傭関係が確定するまで一時停止しておくことが必要であり、適当であるが、さらに進んで被申請人に対し右申請人等の被申請会社への入場を妨害することを禁止する必要まであるかについては、現に被申請会社が同人等の入場を禁止しているのは、本件解雇処分が有効に存続しているので、同人等はすべて同社従業員としての地位を失つているという考えに出ているのであろうから、すでにその基本たる本件解雇処分の効力を停止し、同人等の従業員としての身分囘復を命ずる処分がなされた後は、同人等の就業を被申請人としても敢て拒まないであろうと思われるから、前示入場妨害禁止の仮処分命令は一応その必要がないわけである。さらに、もし被申請人がこれを拒んだ場合は、申請人等はそれを疏明して賃料仮払を求める仮処分を申請すれば足りる。けだし、申請人等の本件仮処分申請は、その生活窮迫を理由とするものであり、申請人等の入場就業を拒む以上、被申請人は債権者遅滞にあり、申請人等は賃金の請求権を失わないからである。
そこで訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 石井米一 西川正世 細見友四郎)